2019/09/09(月)渇望秘話 ~氷菓血筆~

 まずは、コミックマーケット96にて当サークルのスペースにお越しくださった皆様へ、改めてお礼申し上げます。おかげさまで、夏・平日・ページ数の爆発による頒布価格の上昇という(自分にとっては特に)難しいと思っていた条件下にもかかわらず、今回の頒布数は過去最大となりました。
 こちらとしては、頒布価格を上げざるを得なかった点については複雑な思いがあるのですが、それでも「本を出してくれる方がありがたい」と励ましてくださる方もおり、大変勇気づけられました。ありがとうございます。

 せっかくなので、今回の同人誌についての“制作秘話”ではないですが、意図とか私のスタンスとか、そういった「あとがき」とは異なる視点の「裏話」を少し書こうと思います。新刊『氷菓血筆 ~若きドラクロワの芸術~』のネタバレを含みますので、以下お読みになる場合はご注意ください。


筆者的なこのシナリオの位置づけ

 このシナリオは、『情愛は吹雪の彼方2』として設計されたシナリオです。その性質上、「BBTの世界観が好きな人には一段と深く踏み込む」という要素を含めています。
 そのため、かのシナリオと重複するシナリオ上の仕掛けを、どうやって全く違う角度から見せるか、というところに結構悩み、最終的にこのような形となりました。

 要素としては、後書きでも触れていますが『吸血魔街』へのアンサーソング。
 ウォーレン・“グラットン”・レイクの審美家としての一面をフィーチャーした、言わば「魏家」シナリオとして、たっぷりとしたものをお届けできたのではないかと思います。


ヴィジョナリー

 ことBBTについては、『公開されているシナリオ』が決して多くない、と言われています。シナリオ作成にあたって気を付けるものが多い、データバランスに不安がある……そういった印象もあるようで。
 C94発行の『Tiny Egoism』で少し触れた覚えがありますが、私は「基本ルールブックのサンプルシナリオ2本を終えたプレイグループが、次に遊ぶシナリオの選択肢」をシナリオを自作する以外にも増やしたい、という思いがあり、同人誌として頒布したシナリオを後に無料公開する、というスタンスを取っています。
 このスタンスを取る以上、どうしても「シナリオを取り回すにあたって、情報・描写不足で混乱を招かないようにする」という要素を外すことはできません。せっかく他者が作ったシナリオを遊ぶという決断をしてくれたプレイグループに報いるためにも“一風変わった体験”を盛り込むためにシナリオギミックがやや複雑になること、可読性の観点からフォントサイズや行間を広めにとっていることもあり、私の書いたシナリオは、とにかくページ数が膨らみやすい……。

 今回頒布した『若きドラクロワの芸術』で、シナリオ本文の前に「各キャラクターが抱える問題や背景、作中におけるスタンス」を明記する「シナリオの状況整理」という項を作っているのは、このスタンスによるものです。この項目がなければ、本シナリオにおいて影の主役を務めるウォーレン・“グラットン”・レイクが抱えている事情が、シナリオ本編で彼が取れる選択からは見えにくい、という事情もありますが。


同じエネミーデータを使い回すということ

 このシナリオでは、ミドルフェイズで使用するギミックエネミー「幻視爆弾」を、ミドルとクライマックスで雰囲気を変えて再利用しています。これは、《アタックドローン》がそのエネミーに与えるデータ的な影響が大きいからこそできることではありますが……。
 同じエネミーデータを使い回す明確なメリットは、(同人誌的には紙面の節約もありますが)プレイヤーにその脅威を忘れさせないことだと考えています。
 エネミーデータを明確に開示する手段が定義されていないゲームなので、ミドルで使った敵のインパクトが残れば残るほど、クライマックスで再登場した時にプレイヤーが「こいつはこうした方がいい」という作戦を立てやすくなる効果を狙っています。そこに「NPCのエゴによって《アタックドローン》が与えられているので、断ち切られると《アタックドローン》が無効になる」等の演出を加えることで、色々な形で「模倣品」「エゴは替えが効かない」という、このシナリオらしい、BBTらしい味付けになったのではないかな、と個人的には気に入っている仕組みです。


「血に傅く従者」

 この本について語るとなると、イラストのお話は少ししておかないとな、という漠然とした思いがあります。
 今回、(自分でも身の程知らずだと思いますが)『BBT』基本ルールブックの巻頭漫画や公式にイラストを多々出されている、吉田トオル先生に1枚だけイラストを依頼しました。 予算の関係上、誰相手であれイラストは1枚のみ。候補は「表紙」と「クイックスタート用キャラクター」。表紙は自力で何とかするとして、何とか後者のほうを依頼できれば……という形でした。めちゃくちゃ緊張してメール送ったのが昨日のように感じます。
 イラストは巻末、奥付直前にありますが、これはページ最後の方が見開きでコピーしやすいだろうということ、自分の中での扱いが「初代キングダムハーツにおける“王様”」に近しいものだった、ということが大きいです。他の方にイラストをお願いする経験はほとんどなかったので、毎度毎度やりとりのたびに圧倒されるというとても得がたい経験をさせていただきました。本当にありがとうございます。

 ――そしてGF誌の告知でよく見るカラーのデフォルメイラストまで描いていただき、「感動って人をどうにかするパワーがあるんだな……」というのを再度実感した次第。本当にありがとうございました……!



 そんな、ある一冊に込めた愛とエゴ。
 この本を手に取ってくださった方に、少しでも届いてくれたらと願います。