2019/12/30(月)渇望秘話 ~季節去来~

 当サークルの頒布同人誌を手に取ってくださった皆様、ありがとうございます。
 前回の「若きドラクロワの芸術」に引き続き、今回収録した作品についても、裏話というか、本文では語りにくかったことについて少し書き残そうと思います。


作品コンセプト

 C98は間隔が短すぎて参加が難しく、また自分のアイデアもさすがに尽きていたことから、もともとお休みすることを考えていました。あと、セッション準備支援ツールとか、リプレイ動画とか、そのあたりをしっかりと着手したいという思いもあったので。
 そのため、今回のコンセプトは「第一部・総集編」。過去に頒布済みのシナリオを再録しつつ、新録のものを含めて、何かのテーマに沿ったシナリオを複数掲載したい、というところから企画をスタートしています。
 そして、同人誌のテーマは「季節」、そこから発展して「過去」。何かしら、これらのモチーフが盛り込まれたシナリオを6本+αで収録することができました。


同人誌のタイトル

 最終的に「過ぎ去った季節 -For Seasons Past-」というタイトルになった本誌ですが、実はもうひとつの候補がありました。
 題して「愛と夢の多声章 -Wage of Dreams-」。当サークルの“季節四部作”となる「桜の夢」「情愛は吹雪の彼方」「若きドラクロワの芸術」「聖夜狂騒曲」のすべてに、夢蝕みが何らかの形でかかわっているため、「夢」という言葉を使いたかったのです。
 最終的に「過去」を題材にした2作品、および「ディザスタァ・ムーヴィー」の内容を踏まえ、現在のタイトルを選んでいます。
 余談。
 前作はTwitterで「氷菓血筆」という略号を自分ではあまり使わなかったのですが、そもそも最初はこの号がありませんでした。公式リプレイのタイトル形式に合わせて何かの漢字四文字をつけたかったので、もともと予定していたサブタイトル「Grievous Canvas」から発展させて「I screamed on the grievous canvas」→「I scream」→「氷菓」と、米澤穂信先生の〈古典部〉シリーズを引く形となっていました。
 今作は今作で、「季節」をテーマにする時点でタイトルの第一候補は今の「過ぎ去った季節」でした。横文字の部分は、Magic: the Gatheringの同名カードから引く形となっています。


表紙イラスト

 今回も、吉田トオル先生にお願いさせていただきました。
 箇条書きぐらいでしかない案の提示から、自分のイメージを200%具現化してくださり、ありがとうございます。
 表紙絵頼りの本にならないよう、いただいた素晴らしい絵に釣り合う内容を目指して今後も励みたいと思います。


「桜の夢」

 かつて、オフラインセッションでBBTを遊ぶことができていたころ。あるいは、TRPGをオフラインセッション中心で遊んでいたころ。その友人と「今の活動」についてそれぞれ時間を取って話す機会があり、今回の同人誌で“シナリオ原案”を頼めないか、という話を持ち掛けました。
 私は『和モノ』のネタについて知識が乏しい。そのジャンルに友人が強いなら、という思いもありました。

 その相手こそ、小説投稿サイト「ノベルアッププラス」を中心に、和風伝奇モノの創作小説を連載している夏月凛太郎。
 短時間のネタ出しだけでいろんな角度からアイデアが出てくる。それも、自分が知らないような「妖怪」の切り口というのが面白い。

 とりあえず原案だけでもいいよ、ついでだし自分が書いた同人誌も渡しておくよ、という感じで「春」のシナリオを依頼したところ、なんと原案ではなくほぼまるまるシナリオとして使えるテキストが返ってきました。かなりしっかりと作られていたため、ボスの設定をすこしいじる程度でシナリオが完成。よいテキストをありがとう、友よ……。
 ちなみに、公園についてはちゃんと花見スポットとして使われているか等の情報をググって集めました。メフィストフェレスのお膝下、という場所柄と、ほかのドミニオンに接続しているという設定面での使いやすさを考慮して、今の内容にまとまっています。

 余談。彼が担当した「桜の夢」「不順わぬ鬼」は、3人用シナリオなのにハンドアウトが4枚あります。4枚目は、導入の立場をもう少し増やした方が面白そう、と思って倉坂が追加したものです。蛇足じゃなきゃいいんだが。


「情愛は吹雪の彼方 -改訂版-」

 自分のTRPG配布シナリオとしては、イベントデビュー作。今の感覚で読み直すと色々と処理が好みでない部分があったので、情報収集パート部分の流れを手直ししています。
 あと、あんまりBSの与え方が直感的じゃなかったので「思い出の写真」からアイテムデータを削除しました。ルール面で連想する人でないと恩恵が分かりにくいのと、そもそも「これをここから持ち出すのははばかられる」という反応を見せたプレイヤーがいたことからのフィードバックもあって、敢えて消しています。

 こちらも余談になりますが、C93で頒布したコピー本のページ数と、今回の新刊のページ数、実は一致しています。
 なんだか運命的なものを感じました。


「若きドラクロワの芸術」

 Q:どこが秋?
 A:芸術の秋。

 一応、リプレイではエンディングで今の季節が秋であることを示唆する表現が少しありますが、実はこの作品を秋に紐づけることが決まったのは、C96の脱稿直前でしたので、このような形に……。
 「土枕健康法」「神様の言うとおり」「Vivid Virtual Voice」は季節と紐づけるシナリオではないので、もう一作の再録をこれにするのは、執筆開始時点で決めていました。

 Vivid Virtual Voiceに続き、本誌も今回の頒布で在庫がなくなりました。
 シナリオそのものは再録していること、新たに刷っても過剰在庫を抱えるだけになる見通しが濃いことから増刷の予定は今のところありませんが、時期が来たらリプレイをweb掲載しようと考えています。
 併録していたボス戦テンプレート集、「バトル・パラフレーズ」に関しては、近いうちに公開します。もともとは、月1ぐらいのペースでリリースできたら面白いかな?という程度の規格ではあったので、いずれこれも増やしたいですね。


「聖夜狂騒曲」

 『失われた夜空と闇を取り戻す』というところで「ファイナルファンタジー14 漆黒の反逆者」だったり
 愛を証明するために暴虐なる“王”のもとへと駆けてゆくシナリオ構造が完全に「走れメロス」だったり
 なんかこのクソうさん臭い神父、いろいろと分解してみたら村焼きRTA勢のフォルネウス(メギド72)にしか見えなくなったり
 ……と、完成してみたら「うん……?」と首傾げ厨になっちゃう部分の多かったシナリオ。
 ただ、「インパルス」をシナリオの山場に持ってきたり、自分なりの“劇場版”風シナリオとしてちゃんとした体裁を保てていたり、「ダイモーン(daemon)」をちゃんとキャラクターの名前に組み込んだりと、気に入っているところも多いシナリオです。


「不順わぬ鬼」

 原案・夏月凛太郎の2作目。こちらは登場人物とシナリオ概要だけ決めてもらい、シナリオの中身は倉坂の手によるもの。ドミニオン探索モノがひとつもなかったこともあり、基本ルールブックの範囲内でできる処理を……と決めて作っていったところこのような形になりました。
 セフィラ名は日本の城の建築様式から取っているのですが、「武者走り」「鬼岩曲輪」と近年のアクションゲーマーだと見覚えのありそうなフレーズがちらほら。卑怯とは言うまいな……。
 「驕れる鬼は久しからず」という今回予告のフレーズは、今回予告を短くするため書き直した際に加えたフレーズ。実はもともとのイメージが平家だったらしく、偶然の一致なのでした。


「ディザスタァ・ムーヴィー」

 今回の目玉シナリオとして位置付けている、「ジャイガント」ルールを使用して、かつプレイヤー側にジャイガントについて触れてもらうことを意識して作ったシナリオ。web掲載したリプレイもあるよ!
 “怪獣”については、「半魔では“怪獣”そのものをどうにかするのは困難」というインパクトが強く、シナリオに登場させるにあたってはそれなりに気を遣う印象があります。本シナリオは最終的に“怪獣”とは敵対せず、“怪獣”そのものと怪獣使いの「絆」と「エゴ」の関係にフォーカスを当てることで、このあたりの印象を和らげつつ、“怪獣”の設定をどうエモーショナルに使うか、というところに注目したシナリオとなっています。
 ……まあ、リプレイ映えするようにプレイヤーへ「選択」を提示する、というのは否定しませんが。

 どちらかというと、リプレイの編集で色々と手の込んだことをしたシナリオでもあります。
 書籍リプレイでは脚注を流れをあまりせき止めずに入れられるのですが、webリプレイで普通に書いていると注釈を本文中に組み込まざるを得ず、流れをひたすらにぶった切ることになるのであんまりよくないな、と感じていたので、webリプレイで“傍注”を再現できるよう、注釈のある部分をクリックすることで画面左に注釈を表示する、というJavascript&HTMLを組んで対応しました。このあたり、間違いなく《変換 -Palette Converter-》とかEnemyEditorを作った経験が生きてよかったです。今後はこのスタイルでweb掲載のリプレイを書こうかなと思っていますが、読みやすさ等はフィードバックが欲しいので、何かありましたら教えてください。


「除夜の鐘 OF THE DEAD 2020」

 過去にpixivで公開したまま放置している年越し用シナリオ「除夜の鐘 OF THE DEAD」のマイナーチェンジ版。「聖夜狂騒曲」を思いつかなければ、これが冬枠として収録される予定でした。おお、こわいこわい。
 もともとシナリオの構造は気に入っていたので、いろいろ面倒くさい《召喚門》やマップギミックを排してドミニオンズ不要になるよう調整しつつ、情報項目をシンプルかつ低難易度化しながら「OF THE DEAD」要素として1シーン追加しています。
 ……しかし、もともと短くなるよう調整したシナリオではあるんですが、本文が6ページで終わるとは思いませんでした。やれば私もこんなに短いシナリオを作れるんだなって……。

 ちなみに、編集を始めたのが出発当日の0:00過ぎで、完成が4時頃。いくら小冊子のコピー本だからと言って、同人誌作成RTAじみたことを前日にしてはいけない(戒め)



 以上、「過ぎ去った季節 -For Seasons Past-」の裏話でした。
 このシナリオ集、どれか一篇でもお楽しみいただければ幸いです。